多摩で暮らす人 case06
秋川渓谷のせせらぎとともに
粂川拓也さん 有歌子さん(あきる野市)

粂川拓也さん 有歌子さん
都心から車・電車で約60分、ちょっと田舎でけっこう便利な東京のトカイナカ「あきる野市」。そこに住む粂川さんご夫妻にお話を伺いました。
プロフィール
- 〇お名前
- 粂川拓也さん 有歌子さん
- 〇お仕事
- 拓也さん(アーティスト、ジュエリーショップ&レンタルキッチン・スペース経営)有歌子さん(ジュエリースクール主催)
- 〇ご家族
- 粂川さんご夫妻の他、14歳と12歳のご子息たち(いずれも取材当時)と犬1匹の4人+1匹暮らし
- 〇居住歴
- 杉並区にお住まいの後、あきる野市に転居。あきる野市在住歴約8年
「秋川渓谷のそばに住む」という選択肢
—あきる野市に移住された経緯は?
拓也さん:結婚して男の子が2人生まれました。元気に育っていく子どもたちをのびのびとした環境で育てたいと思うようになり、引っ越しを意識し始めました。候補地を探していた時に、ふと秋川のことを思い出したんです。秋川は、自分が子どもの頃にキャンプや川遊びに来ていた場所でした。「思い切ってあきる野まで行くのもいいんじゃないか。」と思ったんです。
そして夏に「秋川に遊びに行こうよ」と家族を誘って払沢の滝に行き、帰りに秋川で川遊びをしたら家族の反応がよかったので、それから何度もあきる野に足を運び、土地の相場や住環境を調べていくうちに、どんどんその気になっていきました。
最終的には良い土地に巡り合えたことが、移住を決意する大きな決め手になりました。
有歌子さん:海、山、川が近くにある場所(静岡)で生まれ育ったので、自分の子どもたちも自然豊かな場所で育てたいと思っていました。なので、山と川が近くにあるあきる野は理想的だったんです。しかも土地代も都心に比べたら破格に安く、JRも通っている。小学校も無理のない距離にあり、さらに大型ショッピングモールが近くにあることが移住後の生活をイメージした時にとても心強かったです。
—移住されるにあたって不安はありましたか?
有歌子さん:長男が小学校に上がる直前のタイミングでこちらに来たので、新しい保育園にすぐに馴染めるかな?お友達ができるかな?という心配はしていましたが、子どもの順応力は高かったです。結局取り越し苦労でした。
拓也さん:不安はあまりなかったですね。
昔から好きだった秋川渓谷のそばに、やんちゃな子どもたちとのびのび暮らせる家を建てて暮らすことにとにかくワクワクしていました。

美しい秋川渓谷
ちょっと遠いと思うけど、都心にも行ける距離感が魅力
—移住でお仕事のあり方が変わりましたか?
有歌子さん:私たちは、アクセサリーの通販をしているので、そもそも場所的な制約はそれほどない業態でした。ただ、都内の百貨店で催事やイベントに出店することが年に数回あるので、その時だけちょっと遠いな、と思うことがあります。
あきる野に来てから始めた「エレクトロフォーミングでジュエリーを作る」(※エレクトロフォーミングとは電気メッキ・銅メッキの技術のこと)スクールも全国どこからでも受講できるように通信で受講するスタイルにしたので、問題なく仕事ができています。

作業するご夫妻

本物の蝶の羽を使ったアクセサリー
人とつながりたくて始めたDIYのレンタルキッチン・スペース
—移住後から始められた「レンタルキッチン・スペース」の概要と始められた理由は?
拓也さん:あきる野のHUBとなるような場を作りたい、という思いがまずあっただけで、はじめはどう運営していくか決めかねていました。場所があるだけという状態から、壁を建てたり、塗ったり、少しずつ場を整えていくうちに、カフェをしたい人と繋がり、キッチン設備が入り、テーブルが入って、今のレンタルキッチンという形になったんです。
レンタルキッチンは曜日貸しを行っていて、火曜日はスパイシーカレー屋さん、水曜日はパン屋さん、金曜日は発酵カレー屋さんなど、曜日ごとにお店が変わります。
昔カフェで働いていて自分でもやってみたいけど、場所も費用もないとか、パン屋さんをやりたいとか、週一回だけのカレー屋さんをやりたいとか、そんな地域のママさんたちに利用していただいています。
有歌子さん:最初はむき出しのガレージだったのを、大工さんや建築士さんの力を借りながら、細かい部分はDIYしてお店を作ってきました。今でもまだDIYしたい部分があります。
完成する時は来ないのかもしれませんね。変化することを楽しみながら、この場所を大切にしていきたいと思います。

レンタルキッチンスペースの前のご夫妻
—人とつながりたいという思いはどこから?
拓也さん:移住前は毎日パソコンと商品ばかりを見て、がむらしゃらにネット通販の仕事をしてきました。お客さんはネット回線の先にいて、会話もなく、たまにお礼、もしくはクレームのメールが来るだけ。走り続ける毎日に息苦しさとしんどさを感じた時に、ふと、人恋しくなったというか。生身の人と接していないなって思ったんです。
そう思ったら、どんどん人と接したい欲みたいなものが湧き上がってきて。
僕は若いころミュージシャンを目指して路上ライブとかやっていたんです。もともと人の前で自分を表現する、人と繋がることが好きなんです。
日々の忙しさに追われて忘れていました。子どもも生まれたし、しっかりしなきゃ、という思いもありましたし。
そんな日々の中で、「移住」という1大イベントをきっかけに「自分たちが理想とするライフスタイルはどんな形だろう?」と夫婦でたくさん話し合いました。話していくうちに、「人と繋がりたいね」という同じ思いが僕たちにあったので、移住をきっかけに変わろう!変えよう!という思いが強くありました。
有歌子さん:移住はとてもいいきっかけでした。
移住前、子ども関係の先生やママ友以外で道端で会ったら挨拶する人というのは、行きつけのラーメン屋の店主と歯医者の先生くらいだったんです。
あきる野に来てからは、お店を持ち、場を提供することで、たくさんの方と繋がることができましたし、ご近所さんも温かい人が多く、挨拶を交わしたり、野菜やお土産をいただくこともあって。ゆるく、優しいつながりが心地よくて嬉しいです。
発想のヒントは長男から! codomoマーケット
—拓也さんは社会活動としてcodomoマーケットというイベントを主宰されているそうですが?
拓也さん:簡単に言うと子どもたちが「自分のお店を開ける」場を提供するイベントです。実際に来るのはリアルなお客さん、売り上げもリアルなお金。何を売るかは子ども自身が考える。当日保護者はお地蔵さん(見守るだけ。口出し禁止)になってもらってやりとりはすべて子どもが行う。そんなイベントです。
—始められたきっかけは?
拓也さん:実はうちの長男なんですよ。
僕らがこのキッチンスペースで1か月くらいイベントをやっていたのですが、途中から当時小2だった長男が入口の所に机を置いて、自宅にある飴とかおせんべいを勝手に売り始めたんです。飴玉1個が100円、おせんべいも1枚100円という超強気の値付けで笑。
そうすると僕らのお客様が長男とコミュニケーションを取ってくださるんですね。
「何してるの?」とか「欲しいけど、1個100円は高いなあ」とか。
そうすると彼はやがて値下げを始めるんですね。飴もおせんべいもひとつ50円とか。それでも売れなくて、ひとつ10円にしたらやっと売れ始めた。売れるとすごく嬉しそうな顔するんですよね。まさに息子がビジネスに目覚めた瞬間を目撃しました。
やがて段ボール使って無人販売まで始めて。最終的に320円売り上げました。
そのお金をどう使うのかなと見ていると、コンビニに行って170円のレモンティーを買ってきて、うまそうに飲むんですよ。
自分が決めて自分が稼いだお金でひとりで買い物をしてみる。これはなかなかできない貴重な体験だなと思い、他の子どもたちにも同じ体験を共有できないかとイベント化しました。
—参加者はどれくらいですか?
拓也さん:2018年にお店を会場にして8組から始まったcodomoマーケットは、今では大型ショッピングモールの1Fメインストリートすべてをお借りして開催するイベントになりました。募集数100組の所、200組くらいの応募があります。全員出してあげたいんですが、スペースが足りなく落選の連絡をする時はとても心苦しいです。
codomoマーケットで忘れてはならないのが、地域で応援してくれる方々の存在です。僕だけの力ではこんなに大きなイベントを成立させることはできません。地域の方がボランティアで協力して、みんなが安心・安全に楽しめる場を作ってくれています。みんな、子どもの笑顔を見れるのが嬉しいって参加してくれるんですよ。とてもありがたく、心強い存在です。
あきる野に移住してきてよかったと心から思います。


codomoマーケットの様子
秋川渓谷の自然が癒しスポット
—最後にあきる野の住み心地は?
拓也さん:住み心地、最高です。8年住んでみて、後悔したことは一度もありません。
僕たちがなにかアクションを起こそうとすると、親切に手を差し伸べてくださる地域の方と出会えたり、行政の方がとても好意的に活動を受け入れてくれたり、商工会の方々が知恵をくださったり、都内に住んでいたら絶対にこんな風に人と繋がることはできなかったと思います。感謝しかありません。
有歌子さん:スーパーもコンビニも電車もあって生活に困らないです。
1時間と少しで都内にも出られますし、この都会との距離感も気に入っています。
そして、なにより山と川が近く、空が広い。忙しくても見上げれば緑があり空がある生活は最高です。都会の生活にはもう戻れません。
—お二人にとってあきる野の穴場的なスポットはありますか?
拓也さん:秋川渓谷の自然が僕にとっての穴場であり癒しスポットです。川の景観そのものがいいんですね。
有歌子さん:朝夕の散歩道が大好きです。毎日ワンコを連れて秋川の川沿いを散歩するんですが、朝は気持ちの良い空気と木漏れ日が、夕方は美しい夕日に癒されています。
6月下旬から7月上旬に蛍が飛ぶんです。自生の蛍なんて贅沢ですよね。とても幻想的できれいですよ。