多摩で暮らす人 case07
「これでいい」ではなく「これがいい」と言い切れる街
礒田祐樹さん(昭島市)

礒田祐樹さん
昭島市は都内で唯一、一般の水道から「深層地下水100%のおいしい水(あきしまの水)」が出ることと、歴史的なクジラの化石出土で知られる「水とくじらのまち」。そこで大人気ラーメン店「アンタイNOODLES」を経営される礒田祐樹さんにお話を伺いました。
プロフィール
- 〇お名前
- 礒田祐樹さん
- 〇お仕事
- ラーメン店「アンタイNOODLES」経営
- 〇ご家族
- 礒田さんご夫妻、お子様2人(6歳と2歳)
- 〇居住歴
- 3歳から25歳までを昭島市で過ごし、23区内や沖縄などに居住した後、38歳から昭島市(中神)に戻って開業。昭島市在住歴合計約32年。
パンクロックにのめり込んだ青春とハードな修行の日々
—まずは開業に至るまでの経緯をお聞かせください。
3歳から25歳くらいまで昭島に居て、若いころはアパレルでサラリーマンをやりながら23区内を転々としていました。昔からパンクロックが好きで、仕事はもちろん真面目にやるのですが、かなり音楽に傾倒していました。
30代半ばになってラーメン店を開業していたバンド仲間を手伝っているうちに、自分もこんな風に自由に楽しんで仕事がしたいという思いが強くなりました。もともと趣味でラーメンの食べ歩きをしていましたし。
「やがては自分の店を持ちたい」という思いでこの業界に飛び込みました。
修業先は一流で厳しい店を選びました。やるからにはそのバンド仲間を超えなくてはと思っていたので。当時はお金もなかったのでお店に寝泊まりしたりとかなかなかハードな日々でした。
そんな中、幸運にも出資してくれるという人がいて、「自分の店を持つことになり『さあどこでやろうか』と考えるようになりました。」

厨房の礒田さん
今の場所を選んだ理由は?
—まずは開業に至るまでの経緯をお聞かせください。
当時はいろんな人から「23区内でやらないとお客さんもメディアも来てくれないよ」と言われましたし、実際自分が修行していた店も都心のTV局の近くにありました。
いわばそれがラーメン業界の常識に近かったわけです。
でもそこでパンク魂というか、反抗心が顔を出して、「そんな業界の常識なんてひっくり返してやる。自分を育ててくれた昭島の中神でやらなきゃ意味がない」って思っちゃったんです笑。自分の育った街で店を出すって素敵だと思いましたしね。
なので最初に「アンチテーゼ・フロム・ローカル」という理念を掲げました。※
アンチ「業界の常識」ということを米国にルーツを持つ仲間に話すと「アンチって英語だとアンタイって発音するんだよ」と聞き、「アンチでもあるし、日本語だと安泰でもある」というわけでいまの「アンタイNOODLES」という店名になりました。
(※アンチテーゼは対抗や反対の意を表すメッセージ)

ロゴを取り巻くスローガンに注目
閑散とした街並みからのスタート
—開店当時の街の様子はいかがでした?
ひどい言い方をするとこの中神周辺はゴーストタウンのようでした。
ご飯を食べるとしたら大手ハンバーガーチェーンかコンビニ弁当。うちが出店する前にこの場所に出ていたラーメン屋さんも週に3回くらい開店するだけ。夜になると店の灯りがなくて、さみしいもんでした。
私も不安でいっぱいでしたが、一応勝算はありました。JRの乗降客数が一定以上あり、周辺に大手ハンバーガーチェーンと郵便局、コンビニ、そして医院があることなど一定の条件はクリアしていたので、あとは修行で磨いた腕でおいしいラーメンを提供すればなんとかなりそうだと。
もともとすごく儲けたいという思いではなくて、自分と家族が食べていければいいやという思いで始めたので。
まずは昭島の中神に美味しいラーメン屋さんが1軒ある、という状態を作りたかったです。

現在の中神地域の様子
「あきしまの水」を使って最高のラーメンを
—都内で唯一水道から「深層地下水100%のおいしい水(あきしまの水)」が出てくるのが昭島市なのですが、礒田さんのラーメンに影響はありましたか?
今のラーメン屋さんは浄水器を使うことが当たり前になっていますが、うちは「あきしまの水」をそのまま使っています。だってミネラルウォーターと変わらないおいしさなのですから。
不遜に聞こえるかもしれませんが「美味しいラーメン」を提供しているという自負はあります。「あきしまの水」はその自信の裏付けになってくれている存在ですね。

調理中の礒田さん


お店の最寄り駅(中神駅)前にある、「あきしまの水」給水機。
—やはり他の地域の水道水とは違いますか?
幼少期から青年時代まで昭島に住んでいたころは、当たり前だと思っていたのですが、他地域に移住して、シャワーから出る水を口に入れた時には、違いに驚きました。
水については地元に帰ってきたから分かる凄みというのを感じます。
うちの店では昭島の水道水を冷やしたものをお客様に出しているのですが、時々SNSで「あの店の水は美味しい」って言ってくださる方もいらっしゃいます。水道水なんですけどね笑。
当たり前じゃないものが当たり前にある。「これでいい」じゃなくて「これがいい」と言える昭島市の凄さ!
—昭島市の良さってどういうところですか?
多摩地域をはじめとするいわゆる地方都市は「これぐらいいろんなものがあればいいか」という「これでいい」という空気があるような気がしているんですが、昭島についてはいろんな人のニーズに的確に答える「これがいい」と言える街だと思っています。

昭島市のよさについて語る礒田さん
—「これがいい」の中身を具体的にお願いします。
自分はいま子育て中なのですが、子育てに必要なものは全部そろっています。
なかでも「アキシマエンシス」という施設は、クジラの骨格模型が展示されている他、図書館になっていて、うちの子たちはほぼ毎週のように本を借りています。
そして昭島駅直結の場所には巨大なショッピングセンターがあり、必要なものはなんでも揃うし、スケートボードパークまである。実は私もスケボーをやってるんですが、ものすごく上手な子供たちがいて、勉強させてもらってます笑。
自然にも恵まれていて、ちょっと行けば多摩川や昭和記念公園でも楽しめます。美味しい水も含めていろんなものが揃っているので(もちろん美味しいラーメン屋さんも)、市民はそれが当たり前だと思っていますが、一度外に出たことがある自分にとっては当たり前じゃないんですよ。それが昭島の凄みだと思っています。
しかもそれが、「自分の部屋」のようにさりげなくすぐ手が届くところにある。すごいものがとても当たり前に身近にある街。それが昭島ですね。


歴史的な「アキシマクジラ」の全身骨格模型が飾られるアキシマエンシスと、緑豊かな昭和記念公園
街づくり街おこしのわずかでも力になれれば
—お店を出された後、状況は変わりましたか?
実はうちのお店がお客様に恵まれてそれなりに評判店になってから、商店街にお店が増え始めたんですよ。今はラーメン屋さんだけでもこの近辺に4軒くらいあるのかな?
最近街に活気が出てきたなという実感はあります。
おそらく中心は行政の方々が、「あきしまの水」とか「水とくじらのまち」などのプロモーションを進めてくれたおかげだと思います。おこがましくてそんなことは言えないのですが、私の店が少しでもそのお手伝いをできていれば嬉しいなと思っています。
少しでも昭島を盛り上げるために貢献したい。
—今後の展開は?
お客様に喜んでいただけるラーメンを進化させることは当然なのですが、地域のお祭りやフードフェアに参加することで、昭島の活性化に少しでも役立てればと思います。
私、ラーメン屋さんなのに変なんですけど、「〇〇ラーメン博」とかに出るの大嫌いなんですよね。「なんで普段来てくださるお客様をほったらかして、店を休んでそんなイベントに出なきゃいけないんだ」って思って。でも昭島を盛り上げる地域イベントであれば話は別です。事情の許す限り参加します!
経営としては損なのかもしれませんが、根っこが「アンチテーゼ・フロム・ローカル」ですからね。

「あきしまの水」を使って作られたアンタイNOODLESさんの「特製つけ麺」